カーボンインディペンデンス(炭素自立)ビジョン: CO2排出削減が困難な産業の循環経済への変革
Carbon Independence Vision: Circular Transformation from Hard-to-Abate Industries(ver. 1) published on Sep. 10, 2024.
Executive summary
- CO2排出削減が困難な産業の排出量実質ゼロを実現しつつ、国内産業の国際競争力を維持、強化するには、ものづくりに関して、輸入資源から脱却した炭素資源の自立が必須
- プラスチックなど化学品のリサイクル率の向上、森林バイオマスを最大活用した素材の生産、CO2の回収と利用および貯留の拡大、産業間の連携により、炭素自立に向けた炭素循環の姿を提示
- 炭素自立を実現するための課題を明確化
温室効果ガスの排出量実質ゼロの背景と現状
現在、2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロの実現は、不可逆の長期目標として国際的に認識されている。ネットゼロの実現には、発電などエネルギー転換部門、自動車など運輸部門、ものづくりなど産業部門、オフィスや家庭など民生・業務部門のそれぞれにおける高い目標での取り組みが求められる。中でも、ものづくりにおけるネットゼロの実現がもっともハードルが高く、各国がその対策に注力している。
CO2排出削減が困難な産業のリスクと事業機会
産業部門の中でも、鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプなどは、エネルギーとして化石燃料を使用するだけでなく、石炭から作られるコークスを使って鉄鉱石を還元する、原油を原料としてプラスチックやゴム・化学繊維を製造する、など、化石資源を素材として利用している。そのため、ネットゼロ実現のためには、再生可能な素材生産や、まったく新しい製法の確立が求められ、CO2排出削減が困難な(Hard to Abate, HTA)産業として位置付けられている。
化石資源の利用を前提とした事業は、ネットゼロが実現された社会では成立せず、現在のHTA産業は事業存続のリスクにさらされている。加えて、ネットゼロの実現に先駆的な取組をする企業は、自社製品を製造するために購入する素材についてもネットゼロを求めるようになってきており、足元の事業に対するリスクも顕在化してきている。これらのリスクは、裏返せば事業機会ともいえる。世界に先駆けてHTA産業のネットゼロを実現し、そのことを競争力の源泉として、強いものづくりの再興につなげる大きなチャンスが存在している。
CO2排出削減が困難な産業のカーボンインディペンデンス(炭素自立)ビジョン
このような背景の下、化学工学会地域連携カーボンニュートラル推進委員会では、輸入資源に依存してきたHTA産業が、持続可能な炭素資源に基づく新たな産業へどのように転換することができるか多面的に議論を重ねてきた。本意見書は、地域連携カーボンニュートラル推進委員会が描く将来のHTA産業の姿を「カーボンインディペンデンス(炭素自立)ビジョン」として取りまとめたものである。炭素自立とは、HTA産業が、バイオマス資源の最大活用とCCUSにより炭素資源の循環を実現する姿を指す。われわれは、プラスチックなど化学品のリサイクル率の向上、国内森林バイオマス資源の最大活用と大気に放出されるCO2の回収、利用、貯留(CCUS)により、HTA産業の輸入化石資源からの脱却が可能であるとの見通しを得た。
炭素自立に向けた課題と論点
炭素自立の実現には、HTA産業のみならず、エネルギー転換部門や運輸部門、業務・民生部門など社会全体の変革と一体となって進めることが重要である。炭素自立ビジョンの実現に向け、本意見書で対象外とした用途や資源の考慮や大胆な仮定等を更に精査していくことも必要である。今後、持続可能な国内林業の実現、産業間の具体的連携に向けた議論の深化とともに、国際標準化やルール形成をリードし、関連主体が一丸となって具体的なアクションにつなげていくことが重要である。